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仮説(Hypothesis)の書き方:コツと例

仮説とは?

仮説とは、現実での現象や現象変数を説明しようとする企てです。仮説は時には「知識/経験に基づいた推測」とも呼ばれますが、本当は過去の観察、存在する理論、科学的証拠や論理に基づいているもの(基づいていなければならない)です。また、仮説は予測ではありません。予測が明確に立てられた仮説に基づいているべきです。例えば、「KLF2遺伝子を欠損させたマイスには心臓に欠乏症が起こるという仮説を検証した」というのは憶測や予測であり、仮説ではありません。

予測に基づいた仮説であれば、「KLF2遺伝子は、マイスの心臓血管系の発達に関係する」と記述するべきであり、その仮説はおそらくクルッペル様因子2(KLF2)のレベルが低いマイスは心臓疾患があるという明確な考察に基づいていることでしょう。この仮説から、この遺伝子が欠損しているマイスは正常に心臓血管系が発達しないと察知する事が出来るので、その後で予測をすることが出来るのです。

たかが微妙な違いでしかないと思うかもしれませんが、真の仮説を含めていなかったり、仮説と予測を正しく区別していない出版物を多数見かけます。しかしながら、明確に仮説を立てたり、それを検証したする事は科学的方法において不可欠なものであることを考慮すると、この2つを区別する根本的なコンセプトを覚えておくのは重要です。特徴的な科学的仮説には、反証可能性(falsifiability)(1934年に科学哲学者であるKarl Popperが紹介した)と試験可能性(testability) の2種類があります。見解が真か偽りかを決める実験やデータを使用できないのであれば、それは仮説ではありません(もしくは非常に質の悪い仮説です)。

簡単に言うと、(1)既存の証拠/理論を見て、(2)仮説を立て、(3)予測して、(4)それを検証する実験やデータ分析を企て、(5)結論に至る。もちろん全研究に仮説があるわけではありません(踏査や仮説生成研究もあります)し、自身の論文でも必ず仮説を記述しなければいけないという事はありません。

でも、科学的方法の原則を理解する上で、研究記事が言及する異なる種類の仮説を理解して、自身の論文で如何に強烈な仮説を述べる事が出来るか、ステップを追って見ていきましょう。

仮説とは研究の詳細が展開していく為の種となるものです。論文内でおそらく最も重要な文章とも言えるでしょう。

研究仮説の種類

仮説はシンプルでいいのです。というのは、一つの独立変数(観察したり処理をする変数)と従属変数(変数や処理に影響されるもの)の関係を記述するだけでよいからです。独立/従属の両方に複数の変数がある場合は複雑な仮説になります。また、興味のある変数同士の関係によって仮説の種類を分別する事が出来ます(たとえば、略式(casual)か連帯(associative)など)。しかし、これらの変数とは別に、対立仮説(alternative hypothesis)と帰無仮説(null hypothesis)と呼ばれるものに大抵の興味はそそられます。この2つの仮説の順番は逆であるべきでは?と思うのは論理上ごもっともです。対立仮説が後者に来るべきですね。ただ、研究者たちは通常この対立仮説に興味を示すので、先ずは対立仮説から説明します。

対立仮説 (Alternative Hypothesis)

研究で二つの変数の関連を推察する場合は、その関連性の記述に必要なのは対立仮説です(統計用語では通常H1と表記されます)。関連性が無いことを証拠付けるよりも、対立仮説を立証する為の十分な証拠がある事を論証するのが仮説検証の目的です。通常、文献、以前の考察、広く知られている理論に基づいた研究からなる仮説が対立仮説です。

帰無仮説(Null Hypothesis)

他にも考え得る結果を表す仮説、つまり変数に関連が無い場合の仮説が帰無仮説です(H0)。自身の研究結果に基づいて、どちらの仮説を選ぶかを決めて下さい。通常は自身の推察が正しければ帰無仮説を却下して対立仮説を選びます。ただ、この思考過程で困惑しないように。自身の予測が、変数間の異なりや変化が無いのであれば、帰無仮説の裏付けを見つけて、H1は却下するべきです。

方向仮説(Directional Hypothesis)

帰無仮説は明らかに「変化が無い」ものですが、対立仮説が観察変数の関連の方向を示す場合があります。例えば、特定のプロテインの発現量が高いマイスは、同発現量が低いマイスよりも行動的である。これを片側仮説(one-tailed hypothesis)と呼びます。

対立仮説における片側仮説の他の例としては、

H1: 重要な試験の前にプライベートレッスンを受けると実績に肯定的な効果がある。

帰無仮説の場合は下記のようになります。

H0: 重要な試験の前にプライベートレッスンを受ける事で実績に否定的な効果は無い。

非方向仮説(Nondirectional Hypothesis)

非方向仮説は、観察効果が期待できる特定の方向は示しません。変数に関連性がある事のみを示します。これを両側仮説(two-tailed hypothesis)と呼びます。例えば、あなたが新薬の研究をしていて、特定の症状(例えば不安感)に関連した実験中、試験管の中で何らかの効果が見られたとします。でも同じ効果が動物にあらわれるかは定かではなく、もしかしたら予想外の副作用が出て不安感を増加させてしまうかもしれない。そんな時は下記の2つの仮説で表現します。

H1: 検証済み薬剤のみが不安感をもった実験マウスに対して不安感の度合いに効果がを示す。

それを帰無仮説に対する非方向仮説で表現すると、

H0: 検証済みの薬剤のみが不安感をもった実験マウスの不安感の度合いに影響をもたらさない。

仮説を書く上でのステップ

研究仮説の種類別の重要な見分け方を理解した今、仮説の書き方の簡単な工程をみていきましょう。

ステップ 1:
過去の研究に基づいて疑問を抱く。研究は常に疑問から始まりますが、課題や現象が既に知られている疑問を考慮するべきです。例えば、ペットを飼っている人々の方が飼っていない人々よりも幸福であるか、という課題に興味があるのであれば、文献研究を行い、既に説明されている結果を調べます。幸福感とペットを飼う事の関係に関する大量の研究が既に行われている事、その上、猫よりも犬を飼う方が効果があるという研究までもある事に気が付くでしょう。そしてその発見があなたの感興を非常にそそったとして、あなたはこう思うでしょう。

何が猫の飼い主よりも犬の飼い主を幸福にさせるのか?

ステップ 2に進んで、その問いに対する答えを見つけましょう。

ステップ 2:
自ら抱いた疑問に対して、強力な仮説を立てます。でも作り話をしたり、ユニコーンを考慮に入れたり、既に行われている事を繰り返したり無視したりはしないように。犬-対-猫に関する文献を探索すると、ほとんどの研究は、個性(personal traits)、精神的健康(mental health)、人生における満足感(life satisfaction) に関する自己評価質問表に基づいている事に気付くことでしょう。ところが、そこには実際の精神的、身体的健康の度合いに関するデータや実験はありません。そこで、例えば一日数回犬を散歩に連れ出すとか、犬の障害物競争をするような活動に参加したり、旅行に一緒に連れて行ったりなど、幸福感を更に高めるのは犬の飼い主のライフスタイルではないかというような、あなた自身の注意深く考え抜いた仮説を立てるのです。そして、下記のような答えを出すことが出来ます。

犬と一緒に参加できる活動のおかげで、犬の飼い主は猫の飼い主よりも幸福感が高い。

次に、あなたの仮説が、この研究記事の最初に記述した2つの必要条件、反証可能性(falsifiability)と試験可能性(testability)に当てはまっている事を確認します。それを検証出来ないのであれば、それは仮説ではありません。犬を飼っても上記であげた活動を行わない方が、犬を飼って、犬と遊んだり走り回ったり旅行に一緒に連れていくよりも幸福感や健康状態が低下するかを検証出来ます。

ステップ 3:
自身の予測を立て変数を明らかにしましょう。仮説を検証する事は可能である事は確認しましたが、次は、全ての関係変数を明確にして、実験やデータ分析を企て、的確な予測を立てなければなりません。例えば、犬の飼い主たちを観察することに決め、彼らにライフスタイルや人生の満足感のアンケート調査に答えて貰い(他の研究もそうしたように)、行動的(active)飼い主、非行動的(inactive)飼い主の2つのグループに分けて比較します。あるいは、過去の研究で摘出されたデータや分析よりも更に上を行き、犬の飼い主の行動的レベルを自ら実験して、その実験に基づいて研究結果を出したいのであれば、飼い主たちを研究所に呼んで、ライフスタイルが似ている飼い主をグループ分けし、彼らの通常のライフスタイルを変えて(例えば、座ってばかりいる非活動的な飼い主たちを犬の障害物競争のクラスに参加させたり、行動的な飼い主には一定の期間楽しい活動をさせない)、実験前と後の彼らの幸福感の度合いを査定するのです。どちらのケースも、あなたの独立変数は「犬と一緒に楽しい行動に携わるレベル」であり、従属変数は幸福感、もしくは健康になります。

科学的仮説の例

ここで、優れた仮説と悪い仮説の例を見てみましょう。

優れた仮説の例

優れた仮説予測/検証研究の質疑
在宅ワークは仕事の満足感を上げる。在宅ワークを許可されている従業員は、オフィスに出勤する従業員と比べて、2年以内に退社する可能性が低い。
睡眠欠乏は認識力に影響する。夜間の睡眠が5時間以下の学生は、7時間以上睡眠をとる学生に比べて試験でのパフォーマンスが良くない。
動物は環境に適応する。種類が同じでも別の島に居住している鳥類は、食物源によってくちばしの形が異なる。
ソーシャルメディアは不安感を引き起こす。4週間ソーシャルメディアの使用を断っていた10代の若者たちに不安症状の改善が見られるか?

悪い仮説の例

悪い仮説予測/研究の質疑問題点
ニンニクは吸血鬼を寄せ付けない。毎日ニンニクを食べる参加者たちは、吸血鬼に攻撃されることはない。誰も吸血鬼に攻撃されない–反証可能では無い
チョコレートはバニラよりも良い。      ??変数が明確ではない–検証可能では無い

仮説の書き方のコツ

この記事の最初でご紹介した仮説と予測の違いが理解できたのであれば、正しく仮説と予測を記述する事が出来ることでしょう。ここで記憶をリフレッシュしてみましょう。(1)既存の証拠を見て、(2)仮説を立て、(3)予測して、(4)実験を企てる。例えば、犬と幸福感の研究を下記のように要約する事が出来ます。

(1) While research suggests that dog owners are happier than cat owners, there are no reports on what factors drive this difference. (2) We hypothesized that it is the fun activities that many dog owners (but very few cat owners) engage in with their pets that increases their happiness levels. (3) We thus predicted that preventing very active dog owners from engaging in such activities for some time and making very inactive dog owners take up such activities would lead to an increase and decrease in their overall self-ratings of happiness, respectively. (4) To test this, we invited dog owners into our lab, assessed their mental and emotional well-being through questionnaires, and then assigned them to an “active” and an “inactive” group, depending on…

 (1)研究結果によると、犬の飼い主の方が猫の飼い主よりも幸福感が高いが、その差の追跡調査は行われていない。(2)その理由として、ペットと一緒に楽しめる活動を多くの犬の飼い主(非常に少数の猫の飼い主)が営んでいる事が幸福感レベルの増加につながっていると仮説を立てた。(3)そして、日頃活動的な犬の飼い主には一定期間の間活動を控えて貰い、日頃非活動的な飼い主たちには活動的な行いをして貰い、全体的な幸福感の自己評価が高まったり低くなったりすることを予測した。(4)その検証を行う為、犬の飼い主たちを研究所に招き、アンケート調査を通して精神的、感情的な健康状態を査定して、「活動的」「非活動的」のグループに分け….

実験の予測では無く、自身の仮説を”we hypothesize”(我々は仮説を立てた)と記述している点、そして、予測には”would” や”if – then”節を用いていますが、仮説にはそのような曖昧な節は用いていない点に注目して下さい。仮説に”would”のような単語を用いて記述をしてしまうと、明確な仮説を立てる事にあまり自信が無いように聞こえてしまいますし、そうなったら読者にもあなたの研究を信じて貰えなくなってしまいます。現在形で記述して、確信度を不明確にするようなmay, might, couldのような法助動詞(modal verbs)は使用しないように、そして誇張を避けて、結論を出そうとしない事、そしてある意味では反証しようとする明確なステートメントの記述を忘れないで下さい。もしも反証が起きてしまっても、それは恐れる事ではなく、科学的過程の重要な一部だと思って下さい。

同様に、研究結果がもたらす意義(imprecation of your research)の説明箇所に”we hypothesize”と記述したり、研究原稿の結論の箇所(conclusion section)で予測を入れたりしないように。なぜなら、これらは明らかに、真の意味の仮説ではないからです。前記したように、多くの学術記事の執筆者は、これらの微妙な区別をあまり気にしないようですが、仮説と予測を区別する事で研究執筆の質を上げられる上、あの悪名高き2番手の査読者 (Reviewer 2)があなたの原稿のあら探しをする理由が減ります。

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