こんにちは!英文校正ワードバイスです。
論文の影響力を高める上で決定的な役割をするアブストラクトの作成方法については、当社でも何度も扱ってきました。
本日はアブストラクトの構成に焦点を当て、要素別の書き方と注意点について説明しています。
オンライン時代の英文要旨(Abstract)
英文要旨(Abstract)は今までも論文の要約として重要な位置を占めてきましたが、近年ジャーナルのオンライン化が進み、読者が論文に到達する方法として検索エンジンでの検索が一般的になるにつれて、その重要度はますます高まっています。(こちらの記事も参考: ジャーナル受理率向上のための英文アブストラクト作成戦略)
英文要旨(Abstract)は論文を「売り込む」ためにあると言っても良く、ビジネスにおける「executive summary」のようなものだと考えることができます。しかし、事業計画書は特定のパートナーに提出され審査を受けることができる反面、論文のアブストラクトは瞬時にフィルタリングが行われてしまうオンライン上でターゲット読者を確実に引き込む必要がある点で、異なる対策が必要です。
APCI (Academic Publishing and Conferences International) は学会やジャーナルでの論文審査において 12の質問・ポイントがあると述べており、アブストラクトはこのすべてのポイントを押さえて作成する必要があると強調しています。アブストラクトは読者が論文の価値を判断し、本文を読むか読まないかを決める唯一の足掛かりとなるだけに、単に魅力的に作成するだけではなく、論文の核心部分を的確に表しているかどうかも重要になります。
それを念頭に置いて、具体的なアブストラクト執筆プロセスを確認していきましょう。
英文要旨(Abstract)を書き始める前の注意事項
アブストラクトの記述タイプを確認
基本的にアブストラクトは論文要旨としての役割を担っていますが、その形式には二つのタイプがあります。descriptiveとinformativeです。二つの違いはこちらで詳しくまとめていますので、ここではポイントのみ解説すると…
- Descriptive abstract: 100-200ワードで作成。研究目的、研究対象、研究方法について説明し、結果と結論に関しては言及しない。
- Informative abstracts: 1段落から1ページで作成。研究結果や結論を含め、研究のすべての要素の要約としての形式を持つ。
このうちinformative abstractsの方が大学やジャーナルでより一般的に用いられていると言えます。Informative abstractsはより長くテクニカルな論文に多く用いられる反面、descriptive abstractsは短いペーパーやアーティクルにより多く用いられる形式です。どちらの形式に従うか決めるためには、まず投稿するジャーナルのガイドラインや大学からの指示を確認し、特に規定がない場合はターゲットジャーナルに掲載されている論文で近年より多く用いられている形式に従うのが安全です。
英文要旨(Abstract)の必要事項とガイドラインをまずは熟知
以前の記事でも何度も強調していますが、まずはアブストラクトを書く前にガイドラインをしっかり確認しておくことが重要です。特にアブストラクトは論文において重要な役割を担うため、分量の少なさに反して内容を絞り込みながら推敲していく過程に長い時間と労力が必要になります。したがって、書き始める前にアブストラクトに記載しなくてはならない内容または記載してはならない内容、ワード数、フォーマットの必要な要素をすべて確認し、書きあがった後にも取りこぼした事項や誤って記載している事項がないかを必ず見直すようにしましょう。事前に必ず熟知しておくべき事項の例は以下のようになります。
- ワード数制限(下限・上限となるワード数または字数)
- 記述スタイルとフォーマットの規定
- abstractのタイプ(結果に言及してもいい or 結果言及は禁止 など)
- 内容や構成に対する規定
ターゲット読者を決める
アブストラクトの主目的は、同じ専門分野で研究を行う研究者に自分の研究に関心を持たせ、自分の研究成果に触れる機会を持たせる点にあります。そのためには、具体的にどのような分野のどのような学問的関心を持つ研究者に論文を届けたいのか、読者層をイメージしてアブストラクトを書くことが重要です。狙った読者層に届けるためには、そのようなイメージの読者がアブストラクトを読んで本文も読もうと判断できるだけの材料を提供しなければなりません。
- 特定分野の研究者に読んでほしい内容か
- あるいは、一般大衆に参考にしてほしい論文か
- 様々な分野への広い汎用性を持っているか
英文要旨(Abstract)を書き始めたら
アブストラクトに書くのは重要な情報のみに絞り込む
【動画レクチャー】効果的な論文タイトル設定のコツ で述べた内容と同様に、アブストラクトもできる限り少ないワード数で論文内容といわゆる「論文のセールスポイント」を的確に表現する必要があります。論文の本質的な内容に関係の薄い引用や、読者がアブストラクトを読んだときに一体何に関する研究なのか混乱してしまうような内容は徹底的に省く必要があります。
アブストラクトを作成する上で気を付けるポイントを紹介しておきます。
- 略語は使用しない。論文内容を知らない読者が読んだ時に何を示す単語なのか理解できるようにする。アブストラクト内で用語の定義を詳細に説明する必要はないが、正式名称を使用すること。
- アブストラクトでは基本的に引用は避けるが、どうしても引用する場合は著名人や有名な言葉のみとする。
- 図表や膨大なデータは含めない。詳細な説明や根拠となるデータは本文中で示す。
英文要旨(Abstract)ではキーワードを効果的に使用すること
単語は検索エンジンが使用する単位であるだけに、ターゲット読者と論文をつなぐ唯一のパイプとしての役割を持ちます。そのため、アブストラクトで使用するキーワードは分野で最も一般的に使用されている形のまま用いること、そしてその用語が論文内容を代表する単語として有効かどうかを考える必要があります。特に学生の論文で多く見られるミスとして、用語を自己流に変形して使用してしまっている場合があります。用語のスペリングや表現を一つでも誤っていると、適切なターゲットに届かなくなるばかりか、同分野の研究者や査読者にとって先行研究の検討が甘いという印象を与えてしまいます。独断でキーワードを判断せず、検索をしたり専門書を確認したりすることで客観的な目から用語使用について確認しましょう。
また、検索に効果的に表示されるためには、研究を最も良く表しているキーワードを5~10個設定し、効果的に使用しながらアブストラクトを執筆するのもポイントです。
例えば、the prevalence of obesity among lower classes that crosses international boundaries (国際的に蔓延する下層階級の肥満)についての論文ならば、
“obesity,” “prevalence,” “international,” “lower classes,” “cross-cultural”などのキーワードが適切でしょう。
アブストラクトの構成
ここまで述べてきたように、アブストラクトは(特にinformativeの場合)数千語で構成された論文の要約としての意味を持っています。ハードサイエンスや社会科学のアブストラクトでは基本的に次のような特徴を持つ傾向があります。
- 一つ一つの要素に関する記述が非常に簡潔 – 内容の重要度によって比重は変わるが、基本的に一つのセクションに関する記述が1,2文で完結
- 1段落で構成される場合が多いため、要素全体が上手く連なって一つのアブストラクトとして効果的な構成となる必要
1.研究の目的と動機を説明
例えばあなたがブラジルのリスの伝染病についての論文を書いたとしましょう。論文について何も知らない読者は、この研究が一体何の役に立つのか?なぜリスの、しかもブラジルに住むリスの伝染病について研究しようと思ったのか?といった疑問を当然抱くでしょう。論文とは、読者にこのような疑問を抱かせないように適切に研究の目的と動機を説明する必要があります。ブラジルのリスの伝染病について研究することが、その分野やひいてはこの世界にどのような貢献を果たせるのか?そして、研究の最終的な目標は何か?ということが分かるように説明する必要があります。
- そのことについて研究しようと思ったきっかけ
- 研究が当該分野にとって、また論文を読む読者にとって重要な理由
つまり、アブストラクトの導入部分では、関連する分野や世間一般にとってその研究が重要である意義について述べるのがポイントです。
2.あなたが見出した研究的疑問を説明
論文とは本来、既存知識の検討を通じて何らの「問題」を見つけ、それを解決するために行った試みとその過程を記述したものです。研究を通してどのような疑問を解決しようとしたのか明確に述べることは、研究の重要性を裏付けることに繋がります。先ほどの例で見るならば、「ブラジルのリスの伝染病」がどれだけ重要な事であっても、もしも既に分野でブラジルのリスの伝染病について網羅的な研究がなされていたならば、わざわざ同じ内容を論文として発表する意味はありません。それを知っていてなおブラジルのリスの伝染病について研究をしようと思ったならば、そこには当該分野で欠けたパズルのピース = 知識の空白を埋めようとする意図があったはずです。「そのパズルのピースは一体どのような色形をしているのか?」という疑問こそが研究的疑問です。
- 研究の主たる焦点はどこにあるか
- 研究において最も重要な主張・論点はどこか
3.使用したアプローチ方法を説明
そのパズルのピースを見つけるために使用した道具やアプローチ方法 (Methods and Materials)について説明します。研究の動機と目的(why)、研究のメインとなる疑問や課題(what)について述べたら、次はどのようにその解決を図ったのか(how)を述べる番です。ここで注意するのは、「どのように問題の根本的な解決や知識への貢献を行ったのか」という研究の意義についてアピールするのではなく、「問題解決のための方法として何を選択し、どのように行ったのか」ということを簡潔に述べることです。研究方法を以前の自分の研究や共同研究から借用している場合はそのことについても述べます。事例研究なのか、シミュレーション研究なのか。どのようなモデルや分析手法採用したのか?研究方法は研究を差別化する重要な情報となるため、適切な用語を使用しながら明確に述べる必要があります。
- 適用する理論・研究のタイプ・変数・研究範囲
- データ収集・解析方法
4.重要な結果に絞ってまとめる
曖昧で主観的な語彙(e.g, “very,” “small,” “tremendous”)は避け、明確なトーンで研究から得られた事実だけを述べます。量的な指標を意識的に用いるのも有効です(i.e., percentages, figures, numbers)。ここは客観的な研究結果を述べるセクションであるため、研究者個人の分析や見解を述べることはしません。
- 研究から具体的に何を得たのか(e.g., 傾向、数的データ、現象同士の相関性)
- 仮説と結果の対比(実験は成立しているか)
- 結果は予想の範囲内のものだったか、あるいは予想外のものだったか
5. 結論を述べる
アブストラクトの最後では、研究から得られた結果の応用性について述べます。ここでは研究から純粋に得られた結果に忠実に、論理を飛躍させることなく述べることが重要です。一つの研究から大きな現象や事実について語るということは難しく、科学論文でそのような行き過ぎた主張をすることに対してはジャーナルや査読者も懐疑的です。誇張しないように気を付けましょう。
- その研究が同分野または世間一般にどのような影響を与えうるか
- 研究から得られた知識に更にどのような研究が加われば、より有効な解決策を生み出せるか
- 分野を発展させるためにはどのような知識が今後必要か
英文要旨(Abstract)の原稿が書き上がったら
基本的な見直しポイント
アブストラクトは一次原稿を書き上げてからの修正作業が正念場です。まずはスペルチェックツールを使用してスペルミスや文法ミスについて確認しましょう。次に、フォーマットとジャーナルの要求事項が遵守できているか簡単に確認します。
第三者からのレビューを受ける
不特定多数の読者にとって分かりやすいことが大前提となるアブストラクトは、第三者の目でチェックを受けることが非常に重要です。信頼できる指導者や友人、その他秘密保持が保証される第三者にアブストラクトを査読してもらい、その反応から意図した内容がきちんと伝わっているかを確認し、指摘に従って修正を加えましょう。手間のかかる作業かもしれませんが、自分一人で作成するのに比べて品質が飛躍的に向上します。
プロの校正者や専門家からの修正を受ける
特にトップジャーナルへの投稿を行う場合は専門家によるネイティブチェックが必須です。文章の伝わりやすさだけを改善するためならば、友人などに校正を依頼することもできますが、専門分野の知識を持ちフォーマットや論文投稿規定を熟知している専門家からの指導を受けてから提出したほうが、エディターの門前払いという悲劇や査読後の大きな修正という二度手間を防ぐ点で効率的でもあります。
さらに注意点
1.本文を書き上げてからアブストラクトの執筆に入ること
これは当社リソースで何度も強調していますが、アブストラクトは本文全体の内容を前提に作成しなければならないため、必ず本文を書き上げてから執筆に取り掛かりましょう。本文と同時進行でアブストラクトを作成したような場合は、本文をまとめていく際に加わった変更をアブストラクトに正確に反映できているか注意深く確認する必要があります。
2.内容の順序に気を付けること
アブストラクトの記述要素も、基本的には論文のセクション構成と同じ順番で展開していくようにします。各セクションに関する記述は本文と対応とするものとし、例としてイントロダクションで結果に対する分析を述べるなど、記述内容を混同してしまってはいけません。
3.本文のコピー&ペーストでアブストラクトを作成しないこと
アブストラクトは論文内容を正確に反映した内容にしなければならないとは言っても、本文をそのままコピー・ペーストしていては規定のワード数に収まらず、全体として意味の通らないものとなってしまいます。特にアブストラクトは本文に先立って独立した文書として読まれるため、アブストラクト自体で十分に意味が成立する内容にしなければなりません。無駄な言い回しは徹底的に削って要約し、表現を言い換えることで字数内で簡潔な記述ができるようになります。
4.詳細に書きすぎないこと
アブストラクトに最も重要なのは必要な情報だけがすっと頭に入ってくる簡潔な記述です。専門的な部分に深く入り込みすぎず、誰が読んでも研究の意義と特徴が把握できるやさしい記述を心がけましょう。専門用語を使用することはできますが、それについての定義を長々と併記する必要はありません。
参考資料
- Hartley, James. Academic writing and publishing: a practical guide. New York: Routledge, 2010. Print.
- Penn State College of Earth and Mineral Sciences Blog: “Descriptive Abstracts.” https://www.e-education.psu.edu/styleforstudents/c6_p8.html
- UNC College of Arts and Sciences Writing Center Blog: https://writingcenter.unc.edu/tips-and-tools/abstracts/
- 効果的な英語論文タイトルの付け方 – 最新トレンド分析 (wordviceJP)
- Wordvice YouTube Channel: “How to Create a Title for Your Research Paper.”
- Management and Economics in Construction Blog: https://cmeforum.wordpress.com/2012/01/04/how-to-write-informative-abstracts/
- 適切な論文キーワード(keywords)の選び方 (wordviceJP)
- Wordvice YouTube Channel: “Parts of a Research Paper.” https://www.youtube.com/watch?v=aO6ipI-d2fw
- ScienceDocs Inc. Blog: “5 Common Mistakes to Avoid When Writing a Discussion.” https://www.sciencedocs.com/writing-a-research-paper-discussion/
ワードバイスの英語論文校正サービス
英文校正ワードバイスでは平均8年の校正経歴を誇るネイティブ校正者が、最短9時間から論文校正いたします。最低単語数制限はございませんので、アブストラクトの英語校閲だけでもいつでもお待ちいたしております。
英文校正・日英翻訳ならワードバイスをご利用ください!
| リソース記事 | 学術論文英文校正 | 学術論日英翻訳 |大学課題添削│サービス料金│よくある質問│